Sept Couleur 3

 

 あっという間に毎日は過ぎた。時間ってのは案外貴重で儚いもんなんだなとか柄にもなく思ったりするくらい、俺は中途半端に大人になりつつある。
 高校に入学して3年目、4度目の春が近づく季節、俺は無事に学び舎を卒業した。

 またね。

 そう言ってアンタが笑ってから、もう4年が過ぎた。

 

 

 

 


 今まで何もしなかったわけじゃない。部活に一応勉強にと忙しかったからバイトもする余裕はなくて、金なんかちっとも貯まんないから遠出は出来なかったけど、チャリと多少の賃金で行ける電車の走行範囲のアンタが居そうな場所は全部探した。
 中学の時ふらりと遊びに行った海岸沿い。何か情報を握ってそうな人がいる青学、氷帝。勿論先輩、後輩にだって色々尋ねて回った。

 俺に出来る事は惜しまずなんだってした。
 だけどやっぱりアンタは見つからなかった。

 どこにいるんだよ。なんで出てきてくれないんだよ。
 来る日も来る日も考えるのはアンタのことばっかで、日に日に想いは募る一方。けれど破裂寸前なこの思いの昇華法を考えるよりはまず、アンタを探すことを優先した。


 4年という月日はとんでもなく長いのに、振り返ると一瞬だ。それと同じで、アンタと過ごした日々も振り返ってしまえば、思い出という形をとってしまえば、一瞬になってしまう。
 会いたくて仕方ないのに。声を聞きたくて、笑顔が見たくて、もっかいその華奢な体にぎゅって抱きつきたくて、名前を呼んで名前を呼ばれて、そんな当たり前の誰にだって出来る挨拶をしたいだけなのに。それすらも出来ないもどかしさが、こんなにも辛いものなんだって初めて知った。

 

「赤也」

 卒業式をついさっき終えて、感慨深げにテニスコートを眺めていたら懐かしい顔が俺を呼んだ。

「柳さん」

 一足先に去年、高校を卒業した先輩は立海の大学へは進まず、国立大学を受験した。元々頭のいい人だったし要領も良いので難なく合格して、体格なんか変わってないのにすっかり見た目は大学生って感じだ。
 黒のジャケットに褪せたジーンズなんて結構適当な格好なのに決まって見えるのは、きっとこの人の背が異様にデカイ所為なんだろうなと少し羨ましくなる。

「久しぶりだな。また背が伸びたか?」
「少しですけどね。お久しぶりです」
「立海の大学部へ進学が決まっていると聞いたが」
「そっすよ。丸井先輩でしょ、しゃべったの」
「あぁ、その通りだ」
「ったくあの人すーぐ何でもしゃべるんだから」

 笑ってる。俺は笑ってる。こうしてテニス部の話をする時、高校でのテニス部の話をする時、絶対に出てこないあの人のことを思いながらも俺は笑えてる。
 一緒にコートに立ちたかった。アンタを超えたかった。超えられなくても、背中を追いかけていたかった。絶対的なまでの強さを見られるだけで、良かった。

「…赤也」
「…なんすか」
「一人暮らし、始めるんだろう」
「え? あ、はい」
「住所教えてくれないか。たまにみんなで押しかけよう」
「げ。それじゃ俺、彼女作れないじゃないですか」
「作る気もないだろう」
「ありゃ、バレてました?」


 携帯をポケットから取り出して、柳さんにメールを送る。ここですよ、そう言って目の前でメールを送った俺に柳さんは相変わらずだなとため息をついたけど、なんだか楽しそうだった。

 充実、した高校生活だったのだろう。
 テニスでは全国制覇もしたし、勉強だって真田先輩にどやされながら柳生先輩に厭味言われながら丸井先輩に馬鹿にされながら仁王先輩に騙されながら必死でやった。
 何でもかんでも頑張っていたら、どっかでアンタが見てくれるんじゃないって安易な発想だった。

 テニスで全国まで進めばアンタがいるんじゃないかって。どっかの会場で会うんじゃないかって。
 結局会うことはなかったけれど、全国制覇をしたなら俺の名前くらいはアンタの元に届いてるかもしれない。あいつまだ頑張ってるんだ弱いなりに、なんてきっと意地悪な笑みを浮かべて雑誌とか見てくれてるんじゃないかって。

 それが独りよがりでただの願望だとしても、幸村先輩の苦悩だとか無視した考えだとしても、そんな考えに縋らないと押しつぶされそうだった。毎日が崖っぷちだった。


「柳さん」
「なんだ」
「全員二十歳超えたら、全員集めて同窓会やりましょうよ」
「…それもいいな。きっと弦一郎は泣き上戸だぞ」
「うげ、それきっついッスね」
「柳生はきっと絡むだろうな」
「うわー…柳さんは酒強そうですよね」
「あぁ弱くはない」
「楽しみですね…全員、ちゃんと集めてやりましょうね」
「そうだな。全員、集めてな」


 フ、と部活中何度も見た、悪戯な笑みを柳さんが浮かべる。幸村先輩のことを思い出しているんだろうか、その顔は酷く楽しげで、出来ることなら中学時代に戻りたいとさえ思った。

 

 苦しいことも多かったけれど、全員が揃って笑い合えた、あの頃に。

 

 

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