Sept Couleur 1

 

 じゃあまたね、あかや。

 

 あんたが言ったんだ。あんたが、またって、笑いながら言ったんだ。
 だから俺は今も探している。この3年間いつだってずっと、その「また」を見つけるために。

 

 


 信じられなかった。何の冗談かと思った。
 今から4年前常勝を掲げる王者立海は、青学に負けた。

 今でも夢に見る。全国大会の準決勝で先輩たちが俺を強くするためにわざと負けてくれたこと。それは単純に勝つより疲れることで、そして難しい。
 大事な準決勝だったのに、俺のために先輩たちは体を張ってくれた。本当に俺があそこで強くなる保証なんて、何一つなかったのに。

 俺がもっと強ければ。もっともっと、頑張っていたら。

 それは常に思ってきた。こんなことを言えば真田先輩に自惚れるななんて言われるかもしれない。けれどそれが真田先輩なりの優しさなんだってことも分かってるし、仮に本当に俺のために体を張ってくれたのだとしてもそれを素直に認めるような先輩たちじゃなかった。


 そして迎えた全国大会決勝。負けることなんか許されてなかったんだ。
 だけど俺たちは負けた。幸村部長の、敗北という形で。


『すまない、俺のせいで…』


 大会が終わって俺に部長が引き継がれたその時、幸村部長は部員全員の前で頭を下げた。
 それまであの人は、平気そうな顔をしていた。少なくとも、俺の前では普段どおり笑っていた。全国で負けたあの日だって、情けないなと言って力なくだけど笑っていた。

 気づかなかった。違う、気づけなかったんだ。そして忘れていた。
 幸村精市が、辛さというものを押し隠す不器用な強さを持っている人だってこと。


 俺はどうしたらいいのかわからなかった。
 頭を下げた幸村部長に、真っ先に真田先輩が駆け寄って頭を上げさせようとした。柳さんも背に手を添えて、そして優しく肩を叩いていた。
 仁王先輩は俺だって、と叫んで歯を食いしばったし、丸井先輩とジャッカル先輩も何も言えずに涙を堪えていた。


 頑なに頭をあげようとしなかった。病を経て辛かっただろうに、苦しかっただろうに、俺たちの元へ再び戻ってきてくれたあんたの心の叫びに、俺は気づけなかった。
 誰も責めてなんかないよ、そう言いたかったのに、頭を下げて歯を食いしばるあんたをみて、俺は言葉を忘れて放心してた。

 


 ねぇ、どうしてこんなことになっちゃったんですか。
 あの時部長という責任に押しつぶされそうになりながら、何を考えていましたか。

 

 引退して初めて会ったのは卒業式の日。
 くしゃっと俺の髪を軽くいじって、泣きじゃくる俺に優しい声で眼差しで態度で仕方ないなと涙を袖で拭ってくれた。

『俺、幸村先輩が、好きです』

 途絶え途絶えになりながら口をついて出た言葉。その時他意はなかったのだけど、今となっては本当に他意がなかったのか大概怪しいところだ。


『俺も、お前が好きだよ。…もう行かなくちゃ。じゃあ…またね、赤也』


 会いたくて、早く会いたくて仕方なかった。
 三年になって、受験を何とか乗り切って、迎えた中学の卒業式。あの時あんたはこんな気持ちだったのかなと、俺なんかとの別れを惜しんでくれる後輩の頭を軽く叩きながらぼんやり思った。


 思えばあの日、あんたがまたねといって笑ったあの日から、俺はあんたを想わない日はなかった。まるで魔法にかけられたみたいにあんたのことばっか考えて、高等部に乗り込みたい気持ちを抑えて毎日をやり過ごしてた。

 桜も咲き始めた4月、高等部のテニス部を見学しに入学より早く足を運んだ俺を待っていたのは、懐かしい大好きな6人の先輩たちの笑顔。


 そう、そこに、一番愛しい人の笑顔は、なかった。

 

 


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