涼風

 

「ん…」


 チリン、という風鈴の音とほぼ同時、幸村は重いまぶたを持ち上げた。


「起きたか」


 喉渇いただろう。
 そういいながら麦茶を差し出した柳に軽く頷いて幸村は体を起こす。


「すっかり涼しくなったものだな」
「うん。もう夏が終わるな」
「そろそろ風鈴を仕舞わねばならないか」
「…まだいいよ。まだ、しまわないで」


 コップに口をつけながら、幸村は風鈴を見上げた。

 真っ赤な金魚の描かれた、とても綺麗な風鈴。風が吹くたび揺れるそれは、どうしてか見ていて飽きない。
 柳の部屋に来るたび、幸村はそうすることしか知らないように風鈴を眺める。あんまりにも風鈴しか見ないものだから、柳は風鈴に嫉妬さえしている、とは本人には言わないけれど、実際幸村がどこまで気づいているのかはわからない。


「あ、ねぇ蓮二」
「なんだ」
「秋になる前にもう一回みんなで花火やろうよ」
「…あれをまたやるのか」
「今度はちゃんとした花火。もう投げたりしないよ」


 散々真田に怒られたもの。そう言って肩を竦めるが、あまり反省しているようには見えない。
 全国大会が終わってすぐ、レギュラー全員で行った花火大会。花火大会、というより花火合戦になってしまって、よく火傷をした者が出なかったなと柳は思う。かくいう柳も結構にえげつない戦法をとって後輩に襲撃をかけていたが、花火の束ごと火をつけて真田に投げていた幸村よりはまだましだ。


「あぁ、でもみんなではもうやらなくてもいいかな」
「というと?」
「蓮二と一緒にやれたらいいや。一緒に線香花火やろうよ」


 ごろんと再び横になった幸村が柳を見上げる。

 どうしてこいつは俺を喜ばせるようなことを無自覚に言うんだ。

 思わず赤くなりそうな顔を、ちょうど揺れた風鈴に目をやることで回避して、そうだな、と苦し紛れに呟く。
 耳まで赤くなっていたんだろうか。幸村はふふっと楽しそうに笑って、隣に座る柳の腰に抱きついた。

「…暑いだろう」
「もう晩夏だから暑くない」
「だが、顔が赤い」
「それは蓮二もでしょ」

 はたと2人動きを止めて、そして視線を交わして同時に吹き出す。
 こんな些細なことでも幸せをかみ締められる自分はお手軽だなぁと思わなくもないけれど、こんな夏の終わりも悪くはないなと、そう思う。

 


Fin.