「久しぶりっスね」
にやり。
言葉で表すならばそれだろうか。
少々年期の入った帽子を目深に被り、太陽を背にまとって目の前の少年は靴紐を結ぶ幸村に声をかけた。
「…どちらさま」
逆光で顔が見えないのが一つ。
声に聞き覚えがないのが一つ。
高校へ進んで3年目。その3年目では初めての練習試合。
青春学園が相手となっている今日、果たして青学にこんな人物いただろうかと首をかしげる。
「どちらさまって…アンタ相変わらずですね」
「え、相変わらずって言われても…キミ誰?」
「越前リョーマ。三年前はお世話になりました」
「越前? …あぁ、あの越前!もっとちっちゃかったでしょ、随分大きくなっ…」
たね、と言おうとしてやめた。正確には続けられなかった。
…靴紐を結びなおして幸村が立ち上がった途端、背の高かった少年は背の低い少年に代わったからだ。
「…あー…うん、前よりは大きくなったよね」
「ストレートな厭味どうもッス」
「それよりアメリカで武者修行してたんじゃないの?」
「そっすよ。今一時帰国中。学校に顔出したら立海と練習試合やるって部長が言うからついてきました」
「よく手塚許したね」
「許可出してくれたのは不二先輩ですけどね」
「納得」
そう言って笑いながら、頭の中を駆け巡るのは3年前のことだった。
3年前、王者と言われながら自分は目の前の少年に負けた。そのせいで立海までもが負けた。あの時はひたすらただ悔しくて悔しくてたまらなかったのだけど今となってはいい思い出だ。
あの時負けたから自分たちはテニスの厳しさを知ったし、勝負の面白さも改めて知った。仲間の大切さも、ありがたさも、そしてやはり勝ちへの執着も、全て再認識した。
今だってまだ十分若いつもりだけど、あの頃はひたすら煌いていたと思う。言うなれば若葉。一番みずみずしくて青々としていた時期。いつか今日を振り返ると、今日もその一部になるのかもしれない。だけど、今は。
「なぁ越前」
「はい」
「ちょっと打とうか」
「えっいいんですか?」
「うん。武者修行の実力見せてよ」
「じゃあ俺が勝ったらなんでも一つ言うこと聞いてくださいね」
「じゃあ俺が勝ったら越前は坊主ね」
「性格悪!」
「ふふ、知らなかった?」
いたずらに幸村が笑う。
風が木々を揺らし、雲が流れる。
これから廻りくるのは、夏だ。
「いーえ。そういうところ全部含めて、俺、アンタが好きですよ」
あたり一面彩るは若葉。
リョーマはニッと口の端を持ち上げて、待ってましたと言わんばかりに鞄からラケットを取り出した。
Fin.
どうしたことだ…リョーマと赤也の区別がわからん。