ふわり、とひとひらのはなびらが舞う様をただなんとなく目で追っていた。そしてそれが地面に落ちるところまで見届けて、あぁ、落ちたなぁなんて思っていたら、誰かがそのはなびらを掬い上げた。
「綺麗だね」
そう言って笑ったその子は、はい、と言ってそのはなびらを手に乗せてくれた。
「ありがと」
かろうじてそれだけ言葉に出来た丸井は、じゃあねと言って走り去るその後姿を呆然と眺めることしか出来なかった。
また会いたい。そして仲良くなりたい。
中学校に入って初めて話したその子。同じ学校だってことは分かってる。髪がちょっと長くて、ふんわりしていて、華奢で綺麗な子だったけど、男だってことも分かってる。だって自分と同じ制服を着ていた。
丸井は入学式を終えて玄関に向かいながら、ポケットに入ったはなびらを手でなぞった。
なんのへんてつもない、地に落ちたはなびら。
だけどあの子が掬い上げたはなびら。
ただそれだけのことなのに、何故か頬は緩みっぱなしだった。
「…い、まるい、丸井ってば」
「ん…?」
肩を叩かれる感覚に重いまぶたを持ち上げれば、視界一杯に幸村の顔が入り込んだ。
「わっ!」
近!と内心叫んで、ちょっと後ずさってから飛び起きれば、幸村は不満顔で口を尖らせている。
「なにも逃げることないだろ」
「い、や、起き抜けに幸村くんの顔のドアップとか心臓に悪いから!」
「そんなに酷い顔じゃないよ」
「むしろその真逆だっつの」
はぁとこれみよがしにため息をついてやれば、そんなこと気にも留めていない幸村は、あ、と声を上げた。
「なに?」
「丸井、頭にはなびらくっつけてる」
「え?」
そしてすっと伸びた手。ふわりと香る幸村だけの香に一瞬動揺してぎゅっと目を瞑ると、その間に幸村は丸井の髪についていたはなびらを手のひらに乗せた。
「きっと風で飛んできたんだね。窓開きっぱなしだし」
手のひらに乗るはなびらを見て微笑む幸村に重ねたいつかの光景。
2年前もこうして幸村と出会った。そう思うと自分たちは何も変わってないようで、だけど確かに変わった。
あの時知らなかった名前も、誕生日も、癖も、特技も、苦手なものも、今は沢山知っている。
たったそれだけのことが嬉しくて、まだその感情の名前に気づいてはいないけれど、丸井は酷く幸せそうに顔をくしゃっと綻ばせる。
「あんときのはなびら、お袋に頼んで栞にしてもらってんだ」
Fin.
どんだけ一途なんだブン太…