変わるもの、変わらない者

 

 まさか、と。自分の目を疑ったのは言うまでもない。大学に進学して2年目。生活も大分落ち着いて余裕さえ出てきた6月。
 中学からつるんできたテニス仲間は、いまや精市と弦一郎、それに柳生だけになってしまった。仁王は立海ではない他の大学へ進学し、丸井は専門学校へ。ジャッカルは家計を助けるために就職したし、赤也は進学する気がなかったらしく、就職して尚テニスを続ける気らしい。
 ただ同じ大学といえど学部が違えば全く会わない。それを仕方ないと思ってしまう辺り、俺も大分変わったのだろう。
 そう。確かに、今日の午前まではそんなことを考えていた。何故今日に限ってそんなことを考えたのかといえば。ただ単に自分の誕生日だからというだけだ。昨年はまだ、赤也が高校にいたから皆で誰かの誕生日ごとに部室に集まっていた。昨年が賑やか過ぎて、当たり前すぎて。今年は、物足りなさを感じているだけだ。
 だからこそ、目の前に広がる光景を素直に受け入れられなかった。

「いつまで突っ立ってんだよ」
「早よせんと、このケーキ全部食っちまうぞ」

 おかしい。どう考えても、おかしい。
 ここは俺の家で。そして俺の部屋で。立海の大学は高校とは別の敷地だから一人暮らしをしていて。鍵は、俺の持つ鍵しかない。
 なのにどうしてこいつらは、平然と俺の部屋でくつろいでいる?
 目の前の状況についていけず未だ部屋の入り口で立ち尽くしていると、中学のときから全く変わらぬ顔で精市がにやりと笑った。

「俺からのサプライズプレゼントはお気に召したかな、参謀」

 その瞬間。あぁ、と理屈抜きで納得した。そうだ、こいつらは、こういう奴だったのだ、と。俺のデータにはない行動、予測できない反応。そんなことばかり得意としていたのが、こいつらだったのだ。
 やはり、変わったのは俺の方なのだろう。
 物足りない毎日を打破しようとはせず、いつのまにかそれを甘んじて受け入れていたのだろう。

「あぁ、警察に突き出したらお前らは捕まるだろうがな」
「ちょっ柳さんアンタ物騒な…!」
「冗談だ、赤也」
「冗談きついっすよ…」

 皆が皆。取る行動は昔と似通っていても、どこかしら振る舞いは大人びた。中でも一番変わったのは丸井だろうか。可愛らしいと表現することさえできた中学時代から比べると、今はもう大人の男だ。身長こそずば抜けて高いわけではないが、おそらく内面的に一番頼れるのは丸井だろう。
 仁王は相変わらずといった感じで後ろ髪がなくなった以外は変わっていなさそうだ。ジャッカルもまた目立った変化はない。弦一郎は言うまでもないし、柳生はキャンパスでもたまに会うから実感はない。
 赤也はまた一回り大きくなったのだろう。頼もしささえ感じるようになった。
 そこまで考えて。やはり自分には、こいつらは特別な存在なのだと、思い当たる。その事実に苦笑さえ浮かぶが、その「特別な」こいつらの目的が、俺の誕生日なのだろうから。素直に嬉しいと感じてしまうのは仕方のないことだ。先月の弦一郎の誕生日には何もしてやれなかったのが些か心残りだが。

「柳早く座れよ、主役はここな」
「あぁ」
「よし、じゃあ今日の主役、蓮二の誕生日を祝して」

 精市が程よく筋肉のついた手で、グラスではなくクラッカーを握った。瞬間、周りの奴らもにんまりと互いの顔を見ながら笑い、照準を俺に合わせる。

「待て、お前らクラッカーは」
「撃てぇー!」

 パァンと近すぎる小さな銃声は、部屋一面を霞ませておまけに大量のごみを吐き出しながら俺に襲い掛かった。久しぶりに蓮二の焦る姿を見た、と満足げに笑う精市。珍しくも一緒にクラッカーを手にしていた弦一郎。早く飯をよこせと言わんばかりに箸を手に持つ丸井、をたしなめるジャッカル。大成功っすねと自分の案ではないくせに誇らしげに笑う赤也と、それを分かっていて口角を持ち上げる仁王。やれやれと自分も参戦していたくせに呆れ顔の柳生。
 もう二十歳だ。二十歳なのに、こんな光景が楽しいと思う。まだまだ子供で、まだまだこいつらが必要な俺だが、それでもまぁこれが俺なのだろう。
 いくつになっても、家庭を持ったとしても。それとはまた違う、別の繋がりが、こいつらとは出来てしまっているのだろうな。


 

Fin.