ハッとして飛び起きると、そこは見慣れた部屋だった。
ドア側に置かれた本棚は綺麗に整頓されているのに、中央に置かれた机の上は雑然と資料が散らばっている。
顎を伝う嫌な汗を拭って俯くと、自分が寝ていたのはどうやら部室の長椅子のようだった。
「…ゆ、夢…?」
それにしちゃやけにリアルだった。
心臓は先ほどまでの出来事がすべて現実だと速度を上げて主張する。
キィ、扉が開くと同時に丸井の肩はびくりと跳ねる。
「目が覚めたか」
涼しげな顔。だけどどこかほっとしたように息を吐いて、柳は丸井にスポドリを手渡す。
「練習中突然倒れたんだぞ、大丈夫か?」
鼓動は未だ落ち着こうとはせず、眉をしかめて柳を凝視する。
明らかに様子の可笑しい丸井に逆に柳が眉をしかめると、僅かに首を傾げて言う。
「どうした人の顔をじろじろと」
柳、だ。
あの冷たい笑みではないし、戦慄が走るまでの狡猾さも伺えない。
本当に夢だったのだろうか。
そういえば最近柳生に本を借りてミステリー系の話を読んだっけ。
ようやく落ち着き出した鼓動に安堵して、ばつが悪そうに丸井は笑みを漏らす。
「悪いな柳。ちょっと変な夢見ててさ」
「あぁ、顔色も少し良くない。今日は念のため見学でもしておけ」
「おう」
暖かい。やっぱ、仲間は暖かい。
そう思うと心なしか元気も湧いてきた気がする。だるさも吹き飛んだようだ。
けれど夢見が悪かった所為か、このまま部活する気にもなれず帰ろうかと長椅子から立ち上がる。
コツ。
ポケットにしまったままだったのだろう、携帯が椅子に当たって床に落ちた。慌ててそれを拾い上げると、先ほどまで暖かかったはずの心に、つうと冷たいものが滴り落ちた。
――― 2007.8.4 17:30
ディスプレイに表示された時間に、思わず息が止まる。
そうだ。
思い出した。
「あぁ、そうだ」
本棚から資料をいくつか取り出しながら、柳は思い出したように声を上げる。
バッと丸井が振り返ると薄っすら口元に笑みを浮かべた柳は、パタンと資料を閉じる。
「旧校舎に残っている、テニス部の資料を取ってきてくれないか?」