※リーマンパロです。出てくるのは三強と赤也だけですが、社会人設定で立海っ子がみんな同じ会社です。
あ、と口を開くより先に、俺の姿に気づいたあの人が軽く手をあげて俺の名を呼ぶ。
「赤也!」
近くにいた同僚に軽く断りを入れてそのゆるやかな髪を揺らしながらぱたぱたと駆け寄ってくれば、幸村さんはふふ、と笑って髪をかきあげる。
いつも思うことだけど、これで25の大の大人の男なのだからびっくりだ。入社してすぐ俺の新人教育にあたってくれたのがこの人だったのだけど、俺は最初本気で男であることを疑った。もちろん体格はすらっとしてて俺なんかより背は高いし、肩幅だって広いし骨ばって男の体つきをしている。だけど、だ。
この顔はどうだ。長いまつげに漆黒の瞳。肌なんかはそこらへんの同僚の女よりも白く透き通ってるし、唇なんかはきっと柔らかいに違いない。
そんなことを男相手に考えてる時点で自分のまっとうな人生はもはやどぶに捨てたようなもんだけど、この人だけは巻き込むまいとそう思う。
「久し振りっス」
「新しい部署にはもう慣れた?」
「っス」
「そっか。よかった。真田とはうまくやってる?」
「それが聞いて下さいよ。あの人何かにつけ俺のことみんなの前で叱るんですよ。ちょっと誤字があったくらいでですよ?」
「あーまぁ真田だからね。蓮二がうまくフォローしてくれてるんじゃない?」
「…その通りです」
「やっぱり」
あの二人なんだかんだでおまえに期待してるんだよ。
そう言って幸村さんは笑うけど、俺は内心この人の鈍さっぷりにうんざりしてしまう。
真田さんと柳さんというのは幸村さんの同期で、幸村さん曰く仲良しらしい。始め幸村さんと同じ部署だったものの今年初めの部署異動で見事に真田さんと柳さんの部署へ異動を喰らって以来、幸村さんから俺の噂を聞いていたらしい二人は何かにつけ俺を目の敵にする。
正確にいうと目の敵にしてるのは真田さんだけで、柳さんに至ってはもっと悪質だ。フォローするふりをしてさりげなく他の人の倍の仕事を与えるし、残業なんて先週だけで4日もあった。それは決して俺の仕事が遅いわけではなく、本当に終わる量じゃないのだ。
なんでこんなに目の敵にされるのか心当たりはある。
俺が幸村さんを好きなことをあの二人も知ってるからだ。いや、真田さんについては微妙なところだけど、大方気づいてる柳さんからいらぬ助言を受けての行動なんだろう。
あの二人が俺とは違う意味で幸村さんを大事にしてるのは傍から見てたらよくわかる。
「ねぇ赤也、今日暇?」
「へっ?」
幸村さんが目の前にいるというのに意識をぶっ飛ばしてた俺が迂闊だった。幸村さんは俺の顔を覗き込むように首をかしげ、そして俺を見上げている。
近い近い近い!んでもって危ない危ない危ない!
昼間っから理性をぶっ飛ばす気もなければこんな会社の廊下で面倒なんか起こしたくない。これだから無意識の天然な行動は困る。というかずっと言いたかったけどこの人ちょっと無防備すぎる!
俺の内心など知ったこっちゃない幸村さんは、俺がなかなか返事をしないのに業を煮やして俺のネクタイをぐいっとひっぱる。
「うぐっ」
「今日、暇?」
「ひ、ひまです!」
「じゃ、どっか夕飯食べに行こうよ」
「…えっ」
「なに。俺とじゃ不満?久しぶりにあの居酒屋連れてってやるよ」
そしたらちょっとは元気出るんじゃない?
にっと口角を持ち上げて、じゃあまた夜にな、と片手をあげて立ち去る幸村さんはどこまでも格好良くて、だけど可愛くて愛しくて。
こりゃ柳さんにハンパない量の仕事を出されても死ぬ気で片づけなきゃなと、頬をパンと叩いて踵を返した。
Fin.