顎が外れるんじゃないかってくらいのあくびをかましながら、外とはまるで別世界のように感じる店内に入る。
12月も半ばを過ぎれば寒さも結構厳しくなってきて、行儀が悪いけどぽっけに手を突っ込んで背を丸めて歩くのがどうにも癖になる。
けれど一歩店内に足を踏み入れてしまえばそんな寒い外のことなど忘れることができる。
店内が暖かいって言うこともそうだけど、今日はなんたってあの人がいる。
「おはよーございます」
店内の人はまばらで、ほとんどが立ち読み客だからレジでぼんやり立っている幸村さんにスポドリを一本さしだして挨拶する。
俺が入ってきたことに気づいていなかったのか幸村さんは目をぱちくりさせて俺の顔とスポドリを見比べた後、にっこりと営業スマイルを整いすぎた顔に浮かべた。
「お客様、こちらの商品は何かおもしろいことをしていただかないとお売りすることができません」
「何スかそれ!」
差し出したスポドリは本当に未だスキャンしてもらえず、カウンターの上にごろんと転がったままだ。
俺の痛烈な、けれど至極まっとうなつっこみをききつけて、幸村さんと同じ時間帯らしい丸井さんも顔をひょっこり覗かせた。
「何々、赤也面白いことしてくれんの?」
「なわけないっしょ!ちょっとスポドリ売ってくださいよ!」
「あーお前これ面白いことしねぇと売れない商品だよ」
「な、そうだよな、丸井」
「ね、幸村くん」
微笑み合う二人に死ぬほど嫉妬する。
だいたい丸井さんは幸村さんの言うことは何だって聞く。俺とシフト入るときは顎で人を使うくせに、幸村さんの前だと自ら率先して動くのだ。
本人には言っていないけど、俺の中で丸井さんはライバルだ。幸村さんも丸井さんを気に入っているようで、甘やかしてるのも気に入らない。
「何じゃ、今日は切原も深夜組か」
「あ、仁王さん、おはようございます」
「はよ。丸井、レジ」
「うーい」
120円になりまーす。ピッというスキャン音とともに聞こえてくる丸井さんのやる気のない声。缶コーヒーを早々に買った仁王さんは、そのままバックルームへと一足先に消えていく。
中から話し声がしてるってことは、きっとジャッカルもすでに来てるんだ。
そう思って時計を見ると、時間はもう21時50分。バイト開始まであと10分しかない。
「ゆ、幸村さん、いい加減これ下さいよ!」
「だからこちらの商品は、」
「あーもう別に買わなくてもいいスポドリをわざわざあんたがレジにいるからって買いに来てる俺の気持ちも汲んで下さいよ!」
あ、待て、今のはすっごい失言だ。
自分の発言にたまらなく恥ずかしくなっていい加減自分でスキャンして金を置いてバックルームに逃げ込もうと思ったけど、その瞬間耳に届いたのはピッというスキャン音。
「へ?」
「125円になります」
「え、あ、はい」
「ちょうど頂きます。深夜頑張ってね」
「…はい、どもッス」
なんでいきなり、え、気持ち汲んでくれたってこと?
思考がまとまらずふらふらとバックルームに向かう途中、丸井さんが盛大にため息をつくのが聞こえた。けれどいまいち振り返る気にならなくて、そのままバックルームに入ったら、仁王さんが珍しくも憐れむような視線を向けてきた。
「お前さん、告白を面白いことに受け取られたのう」
「!」
そういうことか!
急いでバックルームの扉を開けて顔だけ出して、幸村さんに向かってちょっとと叫んだ。
返ってきたのは眩しいまでの笑顔と、シフトインまでの残り時間が4分を切ったという俺にとっては切羽詰まった事実だった。
Fin.