Sept Couleur 5

 

『もしもし蓮二?』


 相変わらずのふわりと柔らかな声であいつが俺の名前を呼ぶ。
 初めは慣れなかった精市との電話も今ではすっかり慣れてしまった。まぁ4年も連絡を取り続けていたら慣れるのは当たり前か。


「今までに増して元気そうだな」
『さすがだね。実は帰国が決まったんだ、退院だって』

 本当に嬉しいのだろう。しきりに笑う声はいつまでも変わることなく無邪気で、早く間近でその笑顔を見たいと思ってしまう。けれど精市がまず帰ってきてするべきことは、俺たちへの挨拶じゃない。この3年間必死で精市を探し続けたアイツに会いに行くこと。精市だってそれを望んでるはずだ。


 俺たちにとって、精市はやはりかけがえのない存在であり、仲間であり、失いたくはない人だった。そこに確かな恋愛感情はなくとも、絆はあった。弦一郎も俺も、精市を好いていた。それは俺たち二人だけではなくて、丸井や仁王、柳生やジャッカルとて同じことだが、その中でも格別、明らかな恋愛感情を持っていたのは赤也一人だった。

 大事な、そして誰のものでもなかったはずの精市が、赤也に取られた。

 俺たちの中学の卒業式のあとで、精市にはっきりと別れを、そして再会の言葉を言われたのは赤也一人だった。だから俺たちは少し意地悪をしてやろうと仁王と俺でちょっとした小芝居を提案した。

 のだが。

『ね、赤也の住所ってもしかして変わった?』
「あぁ。あとでメールで送ろう。あいつの卒業式の日に聞いておいた」
『さすが!ありがと蓮二』

 電話をしてくる度、メールをしてくる度、俺たちテニス部の活躍が載った雑誌を送ってやる度、さりげなく触れられる赤也の話題が何となく面白くなくて、結局三年間赤也を騙し続けたままになった。
 俺たちの卒業式の日、それを盛大に暴露してやるつもりだったのだが、止めたのは珍しく丸井だった。


『いいんじゃね?このままでも。その方があいつ、勉強とかも頑張るっしょ』

 それは冗談だったにしろその場にいた全員が妙に納得してしまった。ので結局赤也が大学生になり、精市の帰国が決まった今でも真相を明かせずにいるのだが。


「…まぁそれはそれでいいか」
『ん?なに?』
「いや何、此方の話だ」
『そう? あ、聞いて俺この前生で初めて鮫見たよ。ちょっとまずそうだった』
「そうか。決してとって食べるなよ」
『うん。どうせ食べるなら鯨の方がおいしそうだよね』


 精市の声は話し方は全く変わらない。脈絡のない頭のかわいそうな話の内容もちっとも成長しない。だからこそ楽しみで、だからこそ会うのが怖い。
 変わったのだろうか。痩せてしまったのだろうか。

 闘病生活を続けたあいつがどうなったのか不安なところではあるけれど、帰国が決まったと嬉しそうに教えてくれたのだからきっとそれほど変化したわけではないのだろう。


「精市」
『なに?』
「頑張ったな」
『…うん』


 病と闘うこと。
 一人で戦ったこと。

 赤也への思いを、ずっと我慢したこと。


 不安だけれど、やはり早く会いたい。そして早く聞きたい。
 精市の口から真実を聞いた赤也が、どんな反応をとったのか。

 

 

 

Fin

 書き終わってサイトにあげようって瞬間に後悔することもある。