逢えない時間

 


 テスト期間は地獄だといっても過言ではない。
 そう思っている。

 真田に怒られている時間とテスト勉強を秤にかけるとするならば迷わず真田に怒られている時間をとる。勿論勉強が嫌いだということも理由の一つだ。が。


「はぁー・・・部長、今何やってのかなぁ」


 大好きな、あの人に会えない。

 


 今回赤点を取ったら全面部活禁止。
 真田に言われた痛烈な一言。その一言さえなかったら今頃ゲームをしているのに。


 そう思いながらも赤也は教科書を開く。
 大好きなテニスが出来なくなるのは非常に辛い。
 しかしそれ以上に、幸村にあえないのだ。
 1年という年の差は大人になったらそれほど感じないものの学生という身分にとっては非常に大きい。
 故に部活を自分から取り上げてしまったら、まるで接点はなくなってしまう。
 テニスが出来なくなること以上に大問題だ。


「あー・・・・わかんねー・・・」

 そして先程からこれの繰り返し。
 教科書を開いては唸って、そしてしばらく考え込んでみるものの、テスト勉強なんてしたことのない赤也は結局そこから進まない。

 危機感はある。しかし解決策が見つからない。

 テスト期間は部活停止になるから困る。
 もしこれで部活をしてもいいなら幸村に教えてもらえるのに。
 器用に右手でシャーペンを回しながら考えることはやはり幸村のこと。
 授業中の幸村も昼休みの幸村も知らない。
 だからこそ部活中に少しでも接点を作ろうと必死なのだが。
 如何せん派手な赤也の行動は真田の目に留まりやすいらしく幸村と話すための時間は真田と 話す時間に変換される。
 それでも救いの手を差し伸べてくれるのが幸村で。
 いつも優しく笑いながら真田を止めに来る。
 けれど大抵正座させられた足がしびれて立てなくなった後。
 あの人も面白がっている部分はあるんだよな。と遊ばれている感も否めない。

「・・・・・ぶちょー・・・」

 逢えない時間が想いを育てるとはよく言ったものだ。
 物足りなくて仕方がない。
 自分が幸村と逢う時間を確保するために勉強を頑張ったといったら褒めてくれるだろうか。
 それとも少し驚いて照れてくれるだろうか。
 そのためにはまず勉強をしなくてはいけないのだけど。
 再び振り出しに戻った思考を振り払おうと頭を振った。
 そのとき。

 ヴーッ ヴーッ ...

 確かベッドの上に放り出していたはず。
 記憶を頼りに手繰り寄せて、ディスプレイを見る。

「っマジで!?」

 一人ガッツポーズをしながら通話ボタンを即座に押す。

「も、もしもし!部長?」
『ふふ、元気だな赤也』

 受話器越しだが確かに顔が見える気がする。
 きっと気だるそうに何かに寄りかかりながら少し顔を伏せていつものように笑っているのだろう。
 幸村の声一つ聞けただけで随分と気力が回復したように思う。

「ど、どうしたんスか?」
『んー?別に』
「別にってアンタ・・・」

 ならなんで電話してきたのさ。
 なんて電話が来たこと自体嬉しいから口には出さないけど。

『勉強、進んでる?』
「えっ!?あー・・・・まぁ、その」
『あはは、進んでないんだ』
「面白がらないでくださいよ。死活問題ですって」

 少し真面目に言ったならば、電話の向こうでいつもより少しだけ目を見開いているだろう幸村の姿が想像できた。
 携帯を持つ手が汗ばむ。
 どうしてか、幸村と対峙する時はいつもの自分でいられない。
 それがどういうことかわかっているつもりだけど。
 赤也はわざとおどけて笑ってみせる。

「俺勉強したことないからどうやればいいのかもわかんなくって」
『・・・ふぅん』
 何処か心非ずな返事。
 聞いているのか確認しようとしたが、口を先に開いたのは幸村のほうだった。


『じゃあさ、俺が勉強教えてやるよ』

「っへ?」

 我ながら、間抜けな声だ。
 驚いている声とは裏腹に不思議と自分のことには冷静で。
 赤也はしばらく幸村の言葉を頭の中で反芻していた。
 そんな赤也を見越してか幸村は可笑しそうに笑うともう一度念を押した。

『お前一人じゃ捗らないどころか進まないだろ。だから俺が見てやるよ』
「え、いや、嬉しいっスけど・・・・アンタ自分の勉強は・・・・」
『俺を誰だと思ってるんだ。勉強なんてお前のを見ながらでも出来る』

 けろっと言い放つ幸村に、あぁそうだったこういう人だったと思い知らされる。
 基本的に何でもこなすくせに、そのくせ大雑把でゴーイングマイウェイなのだ。
 ずっとつるんできた真田も柳も苦労したのだろうと今の赤也ならわかる。

「じゃあ、見てもらってもいいっスか?」
『あぁ』
「えーといつ」
『今日。今から』
「はっ?」
『今からお前の家行くから待ってろよ』
「ちょ、部長!?・・・・・切れた・・・」

 からかうような笑みで、そして猛スピードで切原家に向かっているだろう幸村の姿が容易に想像できる。
 想像出来るだけに気が気じゃなくまず部屋を片付けなければならない。
(どこまであの人は・・・)
 そう思いながら緩む口元を押さえられないのは幸村をどうしようもなく好きだからだろう。
 何から手をつけていいのかわからないが、とりあえず机周りを片付ける。
 さっきまでは逢えない時間が物足りなくて。
 逢えるようになったらそれはそれで、来るまでの時間が待ち遠しい。
 いつから幸村中心の生活になったのだろうと片付ける手を止めたが散らかっていたらきっと怒られるのだろうとまた作業を再開する。


 あと10分。きっとそのくらいであの人は来る。

 

Fin.


自主的課題様よりお題拝借。(閉鎖されました)