HBY

 

 
 ガチャ、と鍵を閉める音が聞こえた。
 まだあたりは薄暗い。4時くらいだろうか。

 シャーという水を出す音が聞こえているから、おそらく赤也は水でも飲もうとしているのだろう。
 朝帰りなんてあまりに日常的過ぎて。
 これが何度目か、なんてことはすっかり忘れてしまった。




 大学生になって、二人で部屋を借りてから1年弱。
 1年もたってしまうとお互いに生活リズムは出来上がってしまうし。
 何より友人関係もてんでばらばらだ。
 バイトだって時間帯は違う。

 すれ違う夫婦ってわけじゃないけど。
 でもそれに近いようなもの。
 今日は土曜日。今週は一回も口を利いていない。



 別にそれが悪いとか言うのではなくて。
 いや悪いんだけどお互い家賃を払うためには仕方ないし。
 ただ、今日という日に。
 今日になる瞬間にいなかったお前が悪い。



 去年はまだ一緒に住んでいなかった。
 だから、今年は一緒に、と思っていたんだけど。



 帰ってきたのは朝。
 俺は寝るに寝れずふてくされている。


 ギシ、ギシと。
 床のきしむ音がする。
 極力音を立てないようにとの配慮だろうか。
 赤也のクセに生意気な。


 だけどその音は近くなって。
 す、とふすまの開く音がして。

 足音は、俺の部屋の中でしていて。






 スプリングのきしむ音と同時に、体が若干後ろへ傾く。
 赤也がベッドに片膝を乗せているのだ。
 なんとなく寝たフリを続けていたら。
 髪をすく感覚がした。



「ごめんね、遅くなって。誕生日オメデト」


 頬に。
 赤也の唇が当たる感触。

 そしてまた足音を立てないように部屋を出て。
 今度こそ、きっと自分の部屋に入ったのだろう。

 薄暗い部屋の中、体を起こす。
 ベッドについた右手にコトンと硬い何かが当たった。



「……あかや…」


 中身をあけるまでもない。
 こんなあからさまな小さくて四角い箱。
 リング以外何を入れるって言うんだ。



 掛け布団をばさっとめくって、部屋を出る。
 今度は俺が脅かしてやろう。
 近所迷惑かもしれないけど今日くらいいいじゃないか。




 パンっと小気味良い音を立てて開いたふすまに。
 赤也が可哀想なくらいのアホ面を披露して俺を見つめている。



「アンタ、寝てたんじゃ…」
「あぁ、横になってた」



 けれど。
 どんなに口調を鋭くしたところで。
 どんなに不機嫌さを装ったところで。



「仕方ないなぁ」


 赤也には、何も通じないのだ。
 ふっと悪戯に笑って右手を差し出した赤也。


「ほら、一緒に寝ましょ?」

「…仕方ないな」


 俺は案外現金だ。
 さっきまでは確かに怒っていた気がするんだけど。
 まぁいい。


 年に一度の誕生日。
 ギスギスしたままじゃ、楽しくない。









 Fin.